2種類の不動産競売|「強制競売」と「担保不動産競売」の違いを徹底比較!

不動産の「競売」と聞くと、住宅ローンの滞納が原因で自宅が売られてしまうイメージを持つ方が多いかもしれません。しかし実際のところ、競売には大きく分けて 「強制競売」と「担保不動産競売」の2種類があり、それぞれ手続きの背景や進め方に違いがあります。
この記事では、強制競売と担保不動産競売の仕組みや違い、競売になる前にできる対策などについてわかりやすく解説します。所有不動産に競売のリスクがある方はもちろん、「住宅ローンを滞納しそう」「借金の返済で不安がある」という方も、事前の情報収集としてお役立てください。
株式会社いちとり
代表取締役/代表相談員
林 達治
東証一部上場不動産会社、外資系金融機関、任意売却専門会社を経て、日本全国の不動産を対象とした任意売却を専門に扱う「株式会社いちとり」を東京都新宿区に設立。
勇気を出して相談してくださったご相談者様に最後まで寄り添ってサポートすることを信条に、現在も会社代表を務めながら代表相談員として、住宅ローンの悩みを抱える方々の問題解決のために精力的に活動している。
長年培ってきた任意売却に関する豊富な知識と経験を活かして、個人・法人問わず、年間500件以上の相談を受けており信頼も篤い。
強制競売と担保不動産競売の仕組みとは?|不動産競売には2種類ある
不動産競売とは、簡単にいうと「競り(せり)」のことであり、購入希望者が同じ対象物を巡って競り合い、最も高い金額を提示した者が落札する(手に入れる)仕組みです。
不動産競売は、民事執行法※1という法律に基づいて実施されますが、民事執行法における不動産競売には次の2種類の手続きがあります。
①不動産に対する強制執行としての競売(強制競売)
②担保権の実行における不動産競売(担保不動産競売)
①は民事執行法第45条~第92条、②は民事執行法第180条~第195条に規定されています。
では、それぞれの違いを確認していきましょう。
民事執行法とは、民事訴訟法の「強制執行」と「競売」の規定を統合した法律のことです。(1979年公布、1980年施行)制定の目的は、
1.執行手続きの迅速化
2.債権者の権利の確実な実現
3.買受人の地位の安定・強化
4.債務者保護
など。尚、本法律に規定されていた「仮差押え」「仮処分」に関する事項については、1989年に「民事保全法」として独立しました。
【参照】法令リード|民事執行法(外部サイトへ移行します)
不動産に対する強制執行としての競売(強制競売)
不動産に対する強制執行としての強制競売は、一般的に「強制競売」と呼ばれています。
債務者が債務を返済できなくなったとき、債権者が裁判での判決や公正証書などの債務名義※2に基づき、債務者の所有する不動産を、裁判所を介して強制的に売却する手続きです。日本では、債権者自らが債権を強引に回収することは禁じられているため、国の権力を利用して債権を回収する方法(強制執行)が用いられます。
債務名義とは、執行機関が強制執行をするときにおいて、債権者に債権が存在することを公的に証明する文書のことをいいます。強制執行は、この文書を前提にして初めて行うことが可能となります。
債務名義の代表的なものには、以下のようなものがあります。
■確定(給付判決)
■仮執行宣言付き判決
■支払督促
■調停調書
■和解調書
■執行証書
など。その他、民事執行法第22条で定められている各文書
このように「債務名義」に基づいて不動産を強制的に売却し、現金化する手続きを「強制競売」と呼び、回収対象の債権が住宅ローン以外であっても申立てが可能です。
さらに、競売手続きには、案件ごとに事件番号が付されます。強制競売の場合は「令和○○年(ヌ)第○○○○号」といった形で( )内には「ヌ」という表記が採用されます。
担保権の実行における不動産競売(担保不動産競売)
担保権の実行としての不動産競売は、一般的に「担保不動産競売」と呼ばれています。
例えば、住宅ローンを契約する際、債権者(お金を貸した金融機関など)は、住宅ローンの対象となる不動産を担保として「抵当権」を設定することが一般的です。
住宅ローンの返済が滞った場合、債権者はこの「抵当権」を行使し、担保となっている不動産を、裁判所を通じて強制的に売却・換価します。このように、担保となっている不動産を競売によって売却する手続きが「担保不動産競売」です。
この担保不動産競売は、さらに次の2つに分類されます。
「不動産担保権の実行」とは、住宅ローンや事業資金などの返済が滞った場合に、不動産に設定された抵当権を債権者が行使し、競売によって債権を回収する手続きのことです。
具体的には、債務者(ローンを借りた人)が返済を怠ると、債権者(主に金融機関)は裁判所に担保不動産競売の申立てを行い、不動産を強制的に売却します。競売で得た売却代金から、抵当権を持つ債権者が優先的に配当を受ける仕組みです。
この配当金は、通常、住宅ローンの残債務に充てられ、債権回収が図られます。
つまり、抵当権の実行は、債権者が担保を活用して貸付金を回収する正式な法的手段であり、住宅ローン滞納が続いた場合には避けられないケースもあります。
「形式的競売」とは、借金の返済や債務の清算を目的とする競売とは異なり、遺産分割や共有不動産の分割、破産手続きなどで不動産を現金化する必要がある場合に利用される競売の手続きです。
たとえば、相続で複数人が不動産を共有することになったが、物理的に分けるのが難しい――こうしたケースで不動産を競売にかけて現金に換え、その代金を分配する方法として活用されます。車や土地など、分けづらい財産の分割手段としてもよく使われています。
形式的競売は、「共有物の分割方法が決まらない」「遺産分割が進まない」といった場面で有効な解決手段となり、裁判所を通じて公正に資産を換価・分配することができます。
担保不動産競売は、強制執行※3ではありませんが、前述の強制競売に関する規定の多くが準用されており、手続きとしては強制執行と同じルールに基づいて行われます。
また、不動産担保権の実行の場合、事件番号の( )内は「ケ」と表記され、形式的競売の場合はその性質に応じて「ヌ」または「ケ」で表記されます。
強制執行とは、債権者が債務者に対して有すると認められた「私法」(私人同士間の法律関係を規律する法のこと。国家と私人との間の法律関係を規律する法は「公法」という)に基づく請求権を、国の権力を用いて強制的に実現する手続きのことで、民事執行法に規定されています。
強制競売と担保不動産競売の違いとは?|最大の違いは申立人と債務の種類
強制競売と担保不動産競売は、どちらも債権回収のために不動産を差押えて売却する手続きですが、実は「誰が申立てるか」という点に大きな違いがあります。どちらも債権回収のための手続きですが、申立ての根拠や権利の種類が異なる点に留意してその違いを確認していきます。
強制競売の特徴|家を差押えられるケース
強制競売を申立てるのは、貸金業者や個人などの債権者が多いです。たとえば、消費者金融からの借入や、知人からの借金などの返済が滞った場合、債権者が裁判で支払い命令を取り、その債務名義(確定判決や公正証書など)に基づいて競売を申立てます。
この手続きでは、対象となる債務は住宅ローンに限らず、さまざまな金銭トラブルが含まれるため、思いもよらない理由で自宅が差押さえられることもあります。
強制競売に発展しやすいケースには、以下のようなものがあります。
- 消費者金融・カードローンなどの滞納
高金利の借入を長期間返済できない場合、債権者が訴訟を提起し、支払い命令に従わなければ不動産に対して強制競売が申立てられる可能性があります。 - 離婚による慰謝料や養育費の未払い
元配偶者から慰謝料や養育費の支払いを求められ、支払いが長期間滞ると強制競売に発展することがあります。 - 裁判での金銭支払い命令の履行拒否
裁判で支払い命令が下されているのに無視し続けると、債権者は不動産を差押えて競売にかける手続きを取ることができます。
担保不動産競売の特徴|住宅ローン滞納で起きる競売
担保不動産競売は、住宅ローンや事業資金の借入時に設定された「抵当権」が実行されることで開始される競売手続きです。つまり、ローンの返済が一定期間滞ったとき、抵当権を持つ債権者(金融機関など)が不動産を競売にかけるという仕組みです。裁判を経ずに申立てができる点は強制競売との大きな違いです。
担保不動産競売の申立人は、主に住宅ローンなどの貸付時に抵当権を設定している金融機関や、金融機関から債権譲渡された保証会社が多いです。例えば、銀行から住宅ローンを借りると、通常はその家に抵当権が設定され、返済が滞ると金融機関は債権を回収するために競売を申立てます。
対象は、住宅ローンだけでなく、事業資金のための融資で担保として不動産を差し出している場合なども含まれます。金融機関は、貸したお金を回収するための手段として担保不動産競売を活用します。
このように「申立人」や「債務の種類」が異なる点が、強制競売と担保不動産競売における大きな相違点です。しかし、どちらも不動産を失うリスクがあるため、支払いに困ったときには、早めに専門家に相談して対応することが重要です。
競売になる前にできる対策とは?
実際に住宅ローンや借金の返済が滞ると、強制競売や担保不動産競売に発展する可能性があります。しかし、競売になる前にできる対策を知っておけば、自宅を失わずに済む方法や、より有利な形で手放す選択肢が見えてきます。ここでは、競売を回避するための現実的な対策をご紹介します。
任意売却という選択肢
任意売却とは、競売になる前に自分の意思で不動産を売却し、住宅ローンの残債を返済する方法です。競売と違い、裁判所を介さずに進められるため、スムーズかつ柔軟な対応が可能です。
任意売却は、住宅ローンの滞納が続いていても、債権者(主に金融機関)と合意できれば、ローン残債が残っていても不動産を売却できる制度です。強制競売・担保不動産競売のいずれのケースでも利用でき、以下のようなメリットがあります。
- 競売よりも高く売れる可能性が高い(残債を圧縮することができる)
- 引っ越しの時期や費用について相談が可能
- 周囲に知られず売却できる(プライバシーが守られる)
そのため、「住宅ローン 滞納 任意売却」などのキーワードで検索している方などにとっては、有力な選択肢と言えます。
債権者との交渉や支援制度の活用
「今すぐの売却は避けたい」「収入が回復すれば返済できる可能性がある」という方には、債権者との返済条件の見直し(リスケジュール)が有効です。例えば、毎月の返済額を一時的に減らしたり、返済期間を延長したりすることで、支払いの負担を軽減できます。また、債務整理などの活用も競売回避の現実的な手段です。
たとえば、
- 任意整理:弁護士を通じて将来利息のカットなどを交渉
- 特定調停:簡易裁判所を利用して債権者と和解を図る
- 個人再生・自己破産:法的に借金を整理し、生活の再建を図る
これらは、任意売却と併用することで、残債への対応も含めたトータルな債務整理が可能です。
競売を回避する方法は、ひとつではありません。
住宅ローンの滞納が続いて不安を感じたら、できるだけ早く専門家に相談することで、選択肢は広がります。任意売却・債務整理・返済交渉など、自分に合った方法を検討することが、競売を避ける第一歩です。
まとめ|競売の種類を知って正しく備えよう
住宅ローンの返済が難しくなったとき、「強制競売」と「担保不動産競売」という2種類の競売があることを理解しておくことは非常に重要です。
競売に至る前には、任意売却や返済計画の見直しといった有効な対策があります。特に、滞納が長期化する前に動き出すことが、競売を回避する最大のポイントです。早めに債権者と交渉したり、任意売却の専門家に相談したりすることで、自宅を守れる可能性が高まります。
「まだ大丈夫」と思っているうちに、手続きが進んでしまうケースも少なくありません。
不安な兆しを感じたら、なるべく早く信頼できる専門家に相談し、状況に合った対策を講じましょう。競売は回避できる場合も多く、適切な知識と行動があなたの生活を守ります。
株式会社いちとりは、東京都新宿区にある任意売却専門の不動産会社です。
「もっと早く相談していれば…」と後悔する前に、住宅ローンや借金の返済に不安がある方は、まずは専門家にご相談ください。状況に応じた最適なアドバイスを受けることで、任意売却や債務整理など、競売を回避できる可能性が見つかるはずです。