住宅ローンと密接に関わる抵当権:競売の危機を回避するには?

 

住宅ローンを利用してマイホームを購入する際に「抵当権」という言葉を耳にしたことはありませんか。抵当権は金融機関が融資を行う上で設定する権利のひとつですが、その仕組みや役割などは意外と知らなかったりします。また、万が一返済が滞った場合に起こりうる「競売」との関係も気になるところです。

この記事では、住宅ローンに関係する抵当権の基礎知識や競売との関係性まで、わかりやすく説明しています。実際に競売が実行されるときに抵当権がどのように作用するのか、事前に知っておけば住宅ローンの利用にも安心感がプラスされるでしょう。

【執筆】

株式会社いちとり
代表取締役/代表相談員

林 達治

東証一部上場不動産会社、外資系金融機関、任意売却専門会社を経て、日本全国の不動産を対象とした任意売却を専門に扱う株式会社いちとりを東京都新宿区に設立。

勇気を出して相談してくださったご相談者様に最後まで寄り添ってサポートすることを信条に、現在も会社代表を務めながら代表相談員として、住宅ローンの悩みを抱える方々の問題解決のために精力的に活動している。

長年培ってきた任意売却に関する豊富な知識と経験を活かして、個人・法人問わず、年間500件以上の相談を受けており信頼も篤い。

目次

住宅ローンの抵当権と競売との関係

住宅ローンを利用して住宅を購入するとき、その住宅は「担保」として登記されるのが一般的です。担保とは、万が一、約束通りの返済が行われなかった場合のことを考えた債権者側(金融機関等)が備える保険のようなもので、滞納が数ヶ月も続くようであれば担保となっている住宅を債権者は差押えて売却し、その売却代金から貸したお金を回収することができます。そして、その回収するための手続きが「競売」です。

住宅ローンの仕組み

住宅ローンは、住宅を購入するための資金を金融機関から借りるためのローン契約です。金融機関からお金を借りるので、借入金(元金)には定められた利率で算出された利息がプラスされます。つまり、借入金額よりも返済金額のほうが多くなるということです。住宅ローンでは、この元金と利息を合計した最終的な返済総額を契約内容に基づいて月々分割で、かつ長期間にわたって返済していく仕組みとなっています。

住宅ローンには、一般的に金融機関などが提供する「民間ローン」、国や地方公共団体などが提供する「公的ローン」、または「フラット35」のような民間ローンと公的ローンを組み合わせたようなタイプのものなどがあります。
さらに、借入時の金利が返済開始から完済するまで変わらない「全期間固定金利型」や市場に応じて金利が変動する「変動金利型」など、金利のタイプによっても様々な種類の商品が提供されています。このように、住宅ローンにはそれぞれ特徴があり、返済日や返済額、利率、返済期間なども異なりますので、そのときの経済状況や将来の生活設計などに合わせて選ぶことが重要です。

そのほか、住宅ローンを借りるためには審査があります。借入先によって各々審査基準が設けられており、収入や勤続年数、借入金額などを総合的に判断して融資決定の判定をします。実際に申込みをする前にローンシミュレーションなどを活用して事前にイメージしておくとよいでしょう。

抵当権とは何か

さて、住宅ローンを借りる際には必ずといっていいほど「抵当権」が設定されます。抵当権とは、ローンの対象となる住宅を担保として設定する権利のことです。
抵当権の設定は、基本的には住宅ローン契約と同時になされますが、抵当権が設定されたからといって購入した住宅での生活や利用に制限がかかることはありません。しかしながら、住宅ローンの返済が滞ると、この抵当権が大きな意味を持ち始めますので注意してください。

抵当権が設定される理由

住宅ローンを借りる際に抵当権が設定される理由は、債権者が貸したお金を確実に回収できるようにするためです。債務者による滞納が続いた場合、通常の請求では回収が困難になると債権者は分かっていますので、住宅という確実な資産を担保にとっておきます。
このように、事前に回収の確実性を高める措置を講じておくことで、金融機関はお金を貸しやすく、また住宅ローン申込者もお金が借りやすくなります。

抵当権が消滅するとき

住宅ローンの返済中は、抵当権は設定されたままです。もちろん、契約通りに毎月きちんと返済していれば生活に特段支障はありませんし、抵当権の存在自体すぐに気にならなくなるでしょう。そして、住宅ローンを完済すると晴れて抵当権は消滅し、住宅は完全に自身のものとなります。

但し、ここでひとつ注意が必要です!

この抵当権は、完済によって自動的に消滅するのではなく、自身で「抵当権抹消登記」という手続きを行わなければ抹消されません。住宅ローン完済の際には、忘れずに抵当権の抹消手続きを行うようにしましょう。

住宅ローンが返済できなくなったら

では次に、住宅ローンの返済ができなくなったときの話をします。

もし、住宅ローンの返済を滞納してしまうと、まず債権者である金融機関などから督促状や催告書などの通知が送られてきます。そのような通知が届いているにも関わらず、なお滞納を続けていると事態は次の段階に進みます。それでは一体、このあと何が起こるのでしょうか。

連帯保証人と保証会社

住宅ローンの滞納が数ヶ月間続くと、債権者は債務者本人(主債務者)からではなく、別の方法で貸したお金を回収するための行動を開始していきます。それが、保証人への督促です。

基本的に住宅ローン契約では、保証人をつけることが求められます。保証人には、家族や親族など信頼できる人が連帯保証人になる場合もありますが、保証会社と保証契約を締結して保証会社に保証人となってもらうケースもあります。

・連帯保証人をつけている場合・

住宅ローンを借りるときに連帯保証人をつけた場合には、主債務者が滞納すると連帯保証人に請求がいくようになります。

・保証会社をつけている場合・

住宅ローンを借りるときに保証会社と保証契約を結んだ場合には、保証会社に請求がいくことになります。請求を受けた保証会社は、債権者(金融機関等)に対して債務の残金全額を立替えて支払います。これを「代位弁済」といいます。代位弁済が行われると、債権(ローン残金を回収する権利)が金融機関等から代位弁済した保証会社に譲渡され、その後は保証会社が債権者となります。つまり、代位弁済後の督促や催告は保証会社から行われるようになります。

しかしながら、住宅ローンの保証人が連帯保証人であろうと保証会社であろうと、督促や請求にも応じずに滞納の状態がさらに続くようであれば、債権者側は最終手段として「競売」の申立てを行います。そうなると、担保となっている住宅は差押えられて競売が実行され、最後には住宅からの退去を余儀なくされます。また、競売では市場相場よりも安価で売却されるケースが多いので、住宅を手放したとしても債務が多く残る可能性が高くなります。

競売申立てのタイミング

債権者への対応もせず、住宅ローンの滞納が一定期間続くと、いよいよ競売申立てのタイミングに入ります。目安としては、おおよそ3ヶ月~6ヶ月ほど滞納が続くと(保証契約がなされている場合には保証会社による代位弁済が行われた後に)裁判所への申立てが実行されることが多いです。その後、裁判所によって競売開始が決定されると、裁判所が手続きを進めて住宅は競売市場へと流れていきます。

競売にかけられると住宅を失い、住宅ローンの残債も多く残ってしまう可能性が高いため、問題解決に向けて早めに動くことがとても重要です。ですので、月々の返済が厳しいなと感じ始めた時点で一度、勇気をもって金融機関や専門家に相談されてみることをお勧めします。

住宅ローンにおける抵当権の役割

住宅ローンにおいて、抵当権はローンの返済が滞ったときにそのお役が回ってきます。金融機関は、住宅購入資金を貸し付ける際に対象の不動産を担保として抵当権を設定しますが、この抵当権という権利を設定することで、万が一債務者の返済が滞ったときに担保とした不動産を差押えて売却することで残金を回収することができます。したがって、抵当権は住宅ローンとは切っても切れない関係なのです。

金融機関のリスク管理

ほとんどの金融機関は、住宅ローンの貸付を行う際に抵当権を設定します。それは、金融機関にとってのリスク管理手段のひとつだからです。債務者による返済がストップした場合でも、不動産を担保に取っておくことで貸付金の回収の可能性を高めています。具体的には、抵当権を設定しておくことで、競売実行時には抵当権を設定した者が優先的に弁済を受けられるので回収不能リスクを減少させられます。

抵当権設定手続きの流れ

自宅を新築したり、住宅を購入したりする場合、金融機関から融資を受ける方が多いと思います。住宅ローンを借りるにあたっては、まず金融機関でのローン審査に通過しなければなりません。そして、審査通過後に借主(債務者)と金融機関(債権者)との間で抵当権設定契約が締結され、対象の不動産を管轄する法務局での登記手続きを経て正式に抵当権が設定されます。一般的には、所有権移転登記や所有権保存登記と同時に抵当権設定登記が行われることが多いです。

不動産登記簿には、抵当権者や債権額、設定日などが記載されます。この手続きにより、返済が滞った場合に不動産を差押えることができる権利が確定します。抵当権設定後に融資が実行され、債務者は定められた返済計画に沿って返済を開始していきます。

抵当権抹消の方法

住宅ローンを完済すると、設定されていた抵当権を抹消することができます。ここで注意が必要なのが、抵当権はローンを完済したら自動的に抹消されるのではなく、自身で抹消手続きを行う必要があるという点です。

その抹消方法とは、まず金融機関から必要書類を受け取り、法務局で正式な抹消登記申請を行います。この抹消登記により、抵当権が公的に解除されて不動産は完全な所有権となります。抹消手続きを怠ると、不動産の売却や新たな担保設定時に支障が出ることもあるため、完済時には速やかに手続きを進めるようにしてください。抹消登記には、必要書類や一定の手数料もかかりますので、事前に確認をしておくのがよいでしょう。

参考:住宅ローンを完済した方へ(抵当権の抹消手続きのご案内) ※法務局のサイトへ移行します(外部サイト)

担保評価と融資額の関係

住宅ローンにおいて、融資額は担保となる不動産の評価額に大きく依存します。金融機関は不動産の公正な価格を審査した上で、その価値の一定割合(通常は70~80%程度)までしか融資しないのが一般的です。これは、返済が滞った場合に競売で売却されても債権を回収できる範囲にしておくためです。そのため、不動産評価が高い場合には高額融資も可能となりますが、評価が低いと希望額の借入れが難しくなります。差押えや競売時のリスク管理の観点からも、担保評価は極めて重要であり、シビアに行われることもあります。

競売における抵当権の効力

住宅ローン契約にかかる抵当権は、金融機関などの抵当権者に対して効力を発揮します。ローン滞納者の不動産を差押え、競売にかけることで、抵当権者は優先して弁済を受けることができる「優先弁債権」があるからです。
また、ひとつの不動産に複数の抵当権が設定されている場合もありますが、そのような場合にもそれらの優先順位、その他の権利との関係にはルールがあります。

優先弁債権とは

優先弁債権とは、競売による売却代金から、抵当権者が他の債権者よりも先に弁済を受けられる(債権を回収できる)権利です。住宅ローンの返済が履行されず差押えが実施された場合、この優先弁債権が行使されます。
例えば、抵当権を持つ金融機関がまず優先的に自己の債権を回収し、その後、残った金額を他の債権者で分配します。したがって、優先弁債権は債権者のリスクを最も回避できる権利といえるでしょう。

複数の抵当権設定時の優先順位

次に、ひとつの不動産に複数の抵当権が設定された場合はどうなるでしょうか。

その場合は、登記された順によって優先順位が決まります。最も早く登記された抵当権が第一順位となり、その権利者が優先弁債権を持ち、以降は第二順位、第三順位・・・と続きます。競売で不動産が売却された場合、まず第一順位の抵当権者に弁済がなされ、残金があれば次の順位の抵当権者へと順次分配されます。そのため、金融機関は融資審査の際にこの優先順位を確認して自行のリスク管理を行います。

抵当権者・債権者以外の権利の扱い

抵当権やほかの債権以外にも、例えば賃借権や地役権といった不動産に関わる様々な権利が存在することがあります。これらの権利は、登記されているか、あるいは特別な保護規定があるかによって、効力や競売後の存続可否が異なります。原則として、抵当権設定後に発生した権利は競売によって消滅することが多いですが、借家人の居住権など例外も存在します。したがって、関係者は登記簿や契約内容をよく確認することが重要です。

競売後に債務が残った場合の対応

競売によって不動産が売却されても、その売却代金がローン残高や債務全額に満たない場合は債務が残ります。競売が行われると抵当権は消滅しますが、債務者(売主)の債務返済義務はそのまま継続します。残ってしまった債務について返済が困難な状況のときは、早めに弁護士などの専門家に相談するなどして対策を講ずるのが望ましいです。

競売以外の選択肢と今後の生活再建を考える

住宅ローンが払えなくなったとき、まず「競売」という言葉が頭に浮かぶ方は多いかと思います。しかし、競売以外で問題を解決する方法はあります。生活を立て直すために、まずは今の自分の状況に合った選択肢は何か、それを正しく見極めることが大切です。

ここでは、競売を避けるための方法のひとつでもある「任意売却」について話をします。競売との違いや住み続けられる可能性、さらには生活再建のための支援策など、様々な情報を得ることで住宅ローン問題を解決する糸口にしていただけたらと思います。

任意売却と競売の異なる点

任意売却とは、競売にかけられる前に自分の意志(任意)で自宅などの不動産を売却することです。一般的に、競売になると市場相場よりも安く落札されてしまうケースが多いですが、任意売却なら専門家のサポートを受けてできるだけ相場に近い価格で売却できる可能性があります。他にも、任意売却では引越しのタイミングや残債の返済方法に関する相談の余地がありますが、一方の競売では手続きが強制的に進み、こちらの希望が反映されにくい点が任意売却とは大きく異なります。

また、競売では落札されて所有権が移転すると、売主は退去せざるを得なくなります。しかし、任意売却であれば、その解決手段の中にリースバックを行うことでそのまま住み続けるという選択肢もあります。リースバックとは、信頼できる第三者に不動産を買ってもらい、その購入者に毎月賃料を支払うことで賃貸物件として当該不動産を借りるという方法です。任意売却の中でもかなりハードルの高い選択肢とはなりますが、処々の条件が上手く揃えば自宅を売却しても今まで同様に住み続けることが可能になります。

競売回避のための相談機関

何としても競売は避けたい!と考えている方には、その他の解決方法について無料で相談できる機関もあります。例えば、自己破産や債務整理を検討されるのであれば、日本司法支援センターが運営する「法テラス」という相談窓口があります。法テラスでは、経済的に余裕のない方の法律相談や弁護士・司法書士費用の立替えなどの相談を無料で行っています。
また、競売を回避する方法として「任意売却」という手続きもありますが、この任意売却は債権者(金融機関等)の応諾が必要になりますので、検討したい場合には任意売却を専門に扱う会社に相談すると話がスムーズに進みます。

住宅ローンの問題を一人で悩まれる方は多いです。競売になる前に相談できる機関はたくさんありますので、決して一人で悩まずにまずは一度、専門機関に相談してみてください。「話を聞いてもらって気持ちが楽になった」という利用者の声は意外と多いです。

参考:法律の相談窓口:法テラス ※法テラスのサイトへ移行します(外部サイト)

住み続ける方法はあるか

競売によって落札されてしまうと退去をしなければならず、自宅は手放さなければなりません。しかし、任意売却であればかなりハードルは高いですが、条件次第では任意売却後に購入者と賃貸借契約を結ぶ「リースバック」という仕組みを利用することで、売却後も賃貸でそのまま住み続けることができる可能性があります。まずは、任意売却の専門家に状況を伝えて相談してみましょう。

早めの相談が生活再建のカギ

住宅ローンの問題に直面したとき、大切なのは一歩ずつ生活を立て直すということです。差押えや競売申立てなど問題が大きくなる前に、早め早めに行動することが生活を守るカギです。

株式会社いちとりは、東京都新宿区に所在する任意売却を専門に扱う不動産会社です。任意売却に関する知識も実績も豊富にありますので、住宅ローンの問題、自宅の差押えに関する心配やご不安がある場合、任意売却に関するご相談などはいつでもお問い合わせください。ご相談者様の状況に応じて、様々なご提案やアドバイスをさせていただきます。

まとめ

自分の暮らしを守る上で、知識として知っておくことはとても大切です。ある程度の基本を理解して万が一に備えておくことで、もしもの時にも慌てずに冷静な判断や選択ができるようになります。自分と家族の明るい未来のために、住宅ローンの仕組みや抵当権の役割、そして競売を回避する手段などについて理解を深めておきましょう。

目次
閉じる