破産手続きにおける管財事件とはどのようなものか

破産手続きについて調べていると「管財」「管財手続」「少額管財」「通常管財」といった言葉をよく見聞きすると思います。似たような言葉で、且つ、微妙に言い回しが違うため、慣れていない人にはどのような違いがあるのか分かりづらいのではないでしょうか。

今回のコラムでは、破産手続きにおける管財事件について説明します。

目次

管財事件とは何か

管財事件とは、破産手続きの種類のひとつで、破産管財人となる弁護士が裁判所によって選任されるものをいいます。

破産管財人は、破産申立者の財産調査(資産調査)や、財産の管理・処分、債権者への配当手続きなどを行います。また、破産を認めても大丈夫かどうかといった免責調査も行います。

自己破産手続きの概要

借金返済ができなくなった際に利用される債務整理には、「任意整理」「自己破産」「個人再生」という3つの主な手続きがあります。
自己破産は、債務整理の手続きのひとつで、借金などの債務を免責してもらうものです。

自己破産手続きの種類

自己破産手続きは、大きく分けると「同時廃止事件」と「管財事件(少額管財・通常管財)」に分かれます。
管財事件の場合は、少額管財手続きの方が多いですが、破産申立者の状況や裁判所の運用方法によっては、通常管財手続きとなるケースもあります。

同時廃止事件とは

同時廃止事件とは、破産管財人が選任されず、簡単な手続きで終わる自己破産手続きをいいます。

自己破産手続きを行うと、財産をお金に換えて債権者に配当することになります。しかし、個人の自己破産については、債権者に配当できるほどの財産を持っていない場合も多いです。であれば、無駄な手続きをせず、簡単な手続きで終わらせようというのが同時廃止の手続きで、破産手続きの開始決定と同時に破産手続きが終了します。

同時廃止事件では、管財人への引継予納金(手続き費用)などが発生しないため、一般的に費用が安く済みます。

少額管財とは

破産法において規定されているのは、通常管財手続きのみであり、少額管財手続きについては特に規定されているものではありません。
しかし、通常管財で破産するには、手続き費用として高額な予納金(最低50万円以上)が必要になるため、お金のない人は破産もできないという問題がありました。そこで裁判所は、最低予納金を20万円と低額に設定した少額管財という手続きを認め、個人でも破産しやすいようにしたのです。

少額管財手続きでは、破産管財人が選任されます。
破産手続きは、債権者が債務者に対して請求する権利を一方的に奪うものになります。そのため、破産要件を満たすものか、破産法に規定されている免責不許可事由がないかなど、しっかり調査します。その調査のために選任されるのが破産管財人で、管財人が選任される手続きのことを一般に「管財事件」と呼んでいます。

少額管財手続きは、債権者に配当できる資産があるような場合や、破産法で規定されている免責不許可事由があるような場合に、裁量免責ができるかどうか確認するために利用されます。

通常管財(特別管財)とは

破産申立者に対し、詳しい調査が必要になるようなケースでは、通常管財手続きとなることがあります。
例えば、法人の代表者や個人事業主の場合、財産隠しなどが疑われる場合、高額な借金を抱えている場合やギャンブルなどの浪費行為をしているような場合などです。

通常管財手続きも破産管財人が専任されます。
詳しい調査を行うために、管財人の報酬となる引継予納金(手続き費用)は50万円以上かかり、少額管財より高額になります。

どの手続きになるかは自己破産申立て後に決まる

自己破産手続きを申立てた場合、「同時廃止事件」と「管財事件」どちらの手続きになるのかは裁判所が決めます。自己破産の申立てをすると、裁判官が申立書類を参考に、どの手続きで処理すべきかを判断します。

判断は、破産申立者の状況や、破産を申立てる裁判所の運用方法によっても変わってきますので、自己破産を依頼するときには、弁護士に自分の状況を正直に伝え、どちらの手続きになる可能性が高いか見定めてもらうのがよいでしょう。

管財事件になるケース

裁判所は、どのような基準で管財事件にするかを決めているのでしょうか。

一定額以上の財産がある場合

一定額以上の財産がある場合は、管財事件になるケースが多いです。少額管財になるか、通常管財になるかは破産申立者の状況や、申立てを行った裁判所の運用方法によって異なりますが、財産の規模が多い場合や、財産の構成が複雑である場合には通常管財となることがあります。

申立ての内容に疑問が残る場合

自己破産の申立てをするときには、申立書と添付書類を提出します。裁判所は、この申立書と添付書類の内容を確認して、同時廃止と少額管財のどちらが適切かを検討します。

そして、申立書と添付書類の内容に疑問が出た場合には、調査をするために少額管財とします。しかし、申立書に疑問があるようなケースでも、裁判所から問い合わせがきた際に適切にフォローできれば問題ありません。

免責不許可事由がある場合

免責を認めるのが不都合であるケースを、破産法では「免責不許可事由」として列挙しています。
例えば、ギャンブルや浪費なども免責不許可事由の中に含まれており、免責不許可事由に該当するとそのままでは免責ができないことになっています。

しかし、免責不許可事由がある場合でも、借金をした事情やその後の反省などを踏まえて、裁判官が免責許可をしてもよいとしています。このような免責のことを「裁量免責」と呼んでおり、現実では殆どのケースで免責不許可事由がある場合でも裁量免責で免責されています。

自己破産時に住宅ローンで購入した不動産がある場合

住宅ローンで購入した不動産を所有している場合、自己破産をするとどのような手続きになるのでしょうか。

住宅ローンについて

住宅ローンは、債権者(金融機関など)から住宅を購入するためのお金を借りる契約です。消費者金融からの借入れなどとは異なり、何十年もかけて返済することが予定されています。そのため債権者は、債務者(お金を借りる人)が途中で返済できなくなる場合のことも考えておく必要があります。

債務者が途中で返済できなくなってしまった場合、債権者は住宅を競売にかけ、売却代金をもって住宅ローンの残債務に充当することができます。このような権利のことを「抵当権」といいます。
住宅ローンの返済ができなくなると、債権者は抵当権を実行して、返済に充てることになります。

自己破産において抵当権が実行されるタイミング

自己破産を弁護士に依頼すると、弁護士は債権者に対して「自己破産の依頼を受けました」という通知を送ります。この通知のことを「受任通知」といいます。

受任通知を住宅ローン債権者が受け取ると、もう住宅ローンの返済はしてもらえないと考え、債権者は抵当権を実行します。抵当権は、破産手続きとは別に実行されますので、この場合、住宅は競売物件として処分されます。

破産管財人が管財物件として換価する

住宅ローンの残債務がそれほど多くなかったり、住宅を売る労力のほうが高くつくと判断された場合には、住宅ローン債権者は抵当権を実行しません。そのような状況において自己破産の申立てをすると、住宅は資産として自己破産手続きの中で管財人によって売却されることになります。
管財人が自己破産手続きの中で売却する物件のことを「管財物件」と呼んでいます。

管財物件は、法律の規定では競売によって売却することになりますが、競売では市場相場の5割~7割程度で売却されることが多いため、市場相場に近く、より高い金額で売却可能な「任意売却」がよく利用されています。

自己破産を申立てる前に任意売却を行えば、債権者から引っ越し費用を受け取ることができる場合もあります。
不動産を所有している場合には、自己破産を申立てる前に一度、任意売却を検討されてみてください。

不動産を所有している方は自己破産の前に任意売却の検討を

不動産を所有していて自己破産すると、管財事件となります。
まずは、任意売却によって「債務を減らす」「引っ越し費用を確保する」「リースバックにより住宅を賃貸してそのまま住み続ける」といった方法での解決を試みることをお勧めします。

検討した結果、やはり自己破産が必要となったときには弁護士に相談しましょう。破産管財人を自分で選ぶことはできませんが、自己破産を依頼する弁護士(申立代理人)は自分で決めることができます。
また、任意売却専門の会社に相談された場合には、破産や債務整理に精通した弁護士を紹介してもらうこともできますので、担当者に確認してみるのも良いでしょう。

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