【実例紹介】不動産詐欺に注意!地面師の手口と見分け方

 

皆さんは「地面師(じめんし)」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。

地面師とは、土地や建物などの不動産所有者(本当の所有者)の全く知らないところで当該所有者になりすまし、その方の不動産を勝手に見ず知らずの第三者に転売して、契約金や売却代金を騙し取ったり、担保に入れて借入れを行ったりする不動産詐欺グループのことです。

ターゲットになりそうな不動産を探す人、書類などの偽造を担当する人、本当の所有者になりすます人、弁護士や不動産業者に扮する人など、細かく役割を分担してグループで犯行に及びます。また、案件ごとにメンバーを組み替えるというグループもあるようです。

地面師による詐欺被害は、地価が高騰して土地取引が活発だった1990年前後のバブル期にも多発したようですが、近年の不動産価格高騰に伴い、再び被害が増加傾向にあるそうですので注意が必要です。

本記事では、不動産詐欺を企んでいる地面師たちの被害に遭わないないよう、実際に当社で任意売却をされた方が巻き込まれてしまった実例などを交えつつ、地面師たちの語り口や手口について説明していきたいと思います。

【執筆】

株式会社いちとり
代表取締役/代表相談員

林 達治

 

東証一部上場不動産会社、外資系金融機関、任意売却専門会社を経て、日本全国の不動産を対象とした任意売却を専門に扱う株式会社いちとりを設立。

勇気を出して相談してくださったご相談者様に最後まで寄り添ってサポートすることを信条に、現在も会社代表を務めながら代表相談員として、住宅ローンの悩みを抱える方々の問題解決のために精力的に活動している。

長年培ってきた任意売却に関する豊富な知識と経験を活かして、個人・法人問わず、年間500件以上の相談を受けており信頼も篤い。

目次

不動産詐欺の実例紹介

それでは、当社で任意売却をされた、Aさんの実体験をお話します。

当社は、Aさんよりご相談をいただき、Aさんのご自宅を任意売却するという依頼を受けました。Aさんのご自宅は都心のとても立地の良い場所にありましたので、以前より密かに地面師グループにも目をつけられていたのかもしれません。

Aさんのご自宅は、当社で任意売却を行い、無事に買主Bさんへの売却が完了したのですが、実はその裏で詐欺行為も行われていたのです。

Aさん宅を狙った地面師グループの手口

それでは、Aさん宅(以降「物件X」とします)を狙った地面師グループの手口は、一体どのようなものだったのでしょうか。

まず、地面師メンバーのCがAさんになりすまし、今回被害に遭われてしまった買主Dさん(買主Bさんとは異なる全く別の人)と「物件X」の売買契約を締結。そして、この売買契約が詐欺だとは思ってもいない善意の買主Dさんから、契約手付金を奪い取ったというものでした。まさに、詐欺を生業とする地面師たちの手口のひとつといえるでしょう。

私自身もまさか、当社の任意売却業務の裏で、このような詐欺事件が進行しているとは思ってもいませんでした。警察からも聴取を受け、当社での任意売却業務について説明をさせていただきました。結果、Cと買主Dさんとの間の売買契約は、地面師グループによる詐欺だと認められ、そこから先は警察の方々に捜査をお任せすることになりました。

任意売却を検討されている方が狙われるケースもあるのです。十分に気をつけなければいけません。

地面師グループは不動産詐欺のプロ!その手口と見分け方

果たして、地面師は一体どのような手口を使って犯行に及ぶのか。実際に他人事でなくなった私は、自分なりに被害に遭わないための対策などについて調べてみました。

地面師の手口

一般的に地面師は、まず本当の所有者が所有する土地や建物の名義を、勝手に自分自身や仲間(共犯者)の名義に変更します。土地や建物の名義変更は、所有権移転登記をすることで可能となりますが、この所有権移転登記をするためには、以下の書類が必要になります。

所有権移転登記に必要な書類

①(土地や建物の)権利証等

②(本当の所有者の)実印、印鑑証明書

③地面師(所有者になりすます人)自身の住民票

①について

地面師が本当の所有者の権利証等を入手する方法には「盗む」「本物そっくりに偽造する」といった手口があります。印刷技術の驚異的な進歩により、本物と見分けがつかないくらい精工に複製された権利証等のコピーであれば、普段見慣れているはずの司法書士でも見抜くことは難しいそうです。

また、権利証等が無かったとしても、本人確認情報や事前通知でも登記が行える場合があるそうですが、その場合は司法書士が本当の所有者かどうかを確認することになります。地面師は、そのあたりのことも熟知していますので、運転免許証などの本人確認書類を偽造して本当の所有者になりすまし、善意の司法書士を騙したり、正規の資格を有する司法書士が最初から地面師グループの一員となっているような悪質なケースもあります。

②について

所有権移転登記には、本当の所有者の実印と印鑑証明書も必要となります。印鑑証明書は権利証等とは違い、偽造防止加工が施されているためコピーで代用することはまずできません。実印の入手も地面師にとってはハードルが高い行為と思われます。

では、彼らはそこで何をするのか。

地面師の中には、偽造した運転免許証などの本人確認書類を用いて本当の所有者になりすまし、印鑑登録自体を新たにやり直すという方法で実印と印鑑証明書を自分たちのものに差し替え、計画を進めていくことがあるようです。

③について

こちらは、地面師本人の住民票ですので簡単に入手できます。

本当の所有者からの名義変更登記にさえ成功してしまえば、あとは比較的簡単に物事は運んでいってしまうようです。理由としては、買主(地面師のターゲットにされた人)側が法務局より登記簿謄本の写しを入手しても、そのときには既に地面師の情報が所有者欄に記載されているため、真偽を疑う余地が殆どないからだと思われます。

地面師の見分け方

ここまで緻密に、巧妙に、組織的に詐欺が実行されているのであれば、「これさえ気をつけていれば絶対に大丈夫!」という対策は、残念ながらないでしょう。
地面師は、不動産や関連の法律を熟知したプロの詐欺師集団です。巧妙な芝居で相手を本気にさせて騙していくのです。

ただ、完璧に見分けることができなくても、お金が動く取引については絶対に油断をしないということがポイントになると思います。

これは、不動産取引に限ったことではありません。また、実際に動くお金がどんなに少額であったとしても同様です。まずは、どのような話でも最初は疑ってかかるくらいの気持ちを持ち合わせていたほうが良いでしょう。

お金が絡むような話が出てきた場合に、まず取るべき行動としては、

  • その場ですぐに返事をしない
  • 慌てて行動を起こさない
  • 受けた電話は一度切り、こちらから折り返すという
  • 訪問者を家の中に入れない、一旦帰ってもらう

というように、自分主体で話や物事を進めていくようにしてください。
そしてこれは、詐欺師全般に見受けられることですが、「相手を急がせる」のが詐欺師の常套手段です。このような詐欺師の芝居に騙されて、咄嗟の判断で返事や行動をしてはいけません。

最近の不動産詐欺について

ここまで、不動産に特化した詐欺をメインで行う「地面師」についてお伝えしてきましたが、地面師たちも日々進化しています。前述したような手口は、少し前までは彼らにとって王道のやり方でした。

しかし最近では、様々な事前準備を要する「名義の書き換え(不動産を自分たちの名義に一旦置き換える)」という面倒な方法は取らずに「自分が本当の所有者である」と偽り、所有者本人になりすまして直接ターゲットに接触して契約を締結し、その時点での契約金や手付金などを搾取するといった手口が増えてきているようです。地面師にとって、手にする金額は少なくなりますが、接触する関係者も少なく、確実にお金を手に入れることができる可能性が高いと判断する部分があるのかもしれません。

さらに、実際には正規の資格を有している司法書士や弁護士などがメンバーの一員となっているような非常に悪質なケースもありますので、詐欺に巻き込まれているのかどうかを見分けること自体が、今まで以上に困難になってきているのも現状です。

不動産詐欺に遭わないためにはどうしたらよいか

地面師のみに限らず、近年横行している各種詐欺の手口は年々巧妙化しています。

地面師に関していえば、積水ハウスやアパホテルなどの大企業も、その被害に遭ってしまいました。たくさんの不動産を扱うプロでさえ騙されることがある詐欺を見抜くというのは、本当に至難の業でしょう。

しかし、前にもお伝えしましたが、詐欺被害に遭わないために私たちができる最大の防御策は、何事においてもその場ですぐに判断や行動をせず、一旦「考える時間を作る」ということに尽きるでしょう。

考える時間を作る

というのは、一度冷静になる、誰かに相談する、そのための時間です。そして、相談するときは、誰かが紹介してくる人ではなく、自分の信頼できる人にしてください。
また、詐欺を働こうとする者は、相手(ターゲット)に対応を急がせるという傾向があります。これは恐らく、その相手(ターゲット)に考える時間を与えないようにするという意図があるのでしょう。

どのような状況であっても、一度考える(冷静になる)時間を作るということが、詐欺被害から自分自身の身を守る唯一の方法なのではないかと私は思います。

もう他人事ではありません!自分がいつ被害に遭ってもおかしくない状況に置かれているということを、常に頭の片隅に入れておいてください。被害に遭ってからでは遅いです。お互い注意深く対応していきましょう!

それでは、最後になりましたが、冒頭Aさんが巻き込まれてしまった詐欺事件の結論をお伝えします。
詐欺を働いた地面師たちは、無事、警察によって逮捕されたそうです。本当に良かったと心から安堵いたしました。

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