差押えを解除するために!解除要件や対応方法を解説
「長いあいだ税金を払わず、督促も無視していたら自宅が差押えられてしまった!」
「このあと自宅はどうなってしまうの?」
あってはならないことですが、最近増えてきている状況です。
そこで今回は、差押えを解除するための要件や対応方法を分かりやすく説明いたします。
差押えの原因
まず、「差押える」とは、「押さえて動かなくすること」です。
差押えは、債権の弁済を怠っている者(債務者)に対して、権利を有している者(債権者)が、換金可能なものを差押え、回収しようとする行為です。そして、差押えは債権者が裁判所に申立て、認められると執行されます。
具体的な差押えの原因
差押えの原因となるもので、最も多いものが税金の滞納です。
税金の場合、債権者にあたるのは国税であれば国、市県民税などの地方税であれば都道府県や市町村などで、債務者は納税者です。つまりあなたが税金を滞納していれば、国や地方自治体に滞納税金という債務を負っているということになります。
また債権者、債務者という関係のとおり、銀行や消費者金融に代表される融資(ローン、借入れ、借金)でも差押えは行われますし、商取引においても支払いをしない相手に対して差押えをする場合はあります。
【差押えの要件】
■ 滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して十日を経過した日までに完納しないとき。■ 納税者が国税通則法第三十七条第一項各号(督促)に掲げる国税をその納期限(繰上請求がされた国税については、当該請求に係る期限)までに完納しないとき。
国税徴収法第47条
差押えされるとどうなる?
差押えを受けると、自分の持ち物であっても自由に処分ができなくなります。では、差押えされるとどうなるのか?
まず、差押えられる対象は何かという点からみていきます。
差押えの対象になるモノ(資産や権利など)
差押えられてしまう可能性のあるモノ(資産や権利など)は、主に以下の通りです。
差押えられる可能性があるモノ
■ 預貯金や登録国債、振替社債等:預貯金や国債、転換社債など
■ 動産及び有価証券:電化製品などの家財一式や株式(有価証券)など
■ 登記された不動産や大型の機械など:土地建物、船舶、航空機、建設機械など
(未登記の不動産でも、その人の持ち物だと特定できる場合は対象になります)
■ 無形固定資産:電話加入権や特許権など
■ 債権:他者にお金を貸している借用証書や売掛金など
(未支給の給料も「会社から労働の対価としてもらうべき債権」として、差押えられることがあります)
【継続的な収入に対する差押の効力】
国税徴収法第66条
給料、年金、賃貸借契約に基づく賃料債権、社会保険制度に基づく診療報酬債権(平成17.12.6最高決参照)その他これらに類する継続収入に対する債権の差押えの効力は、徴収すべき国税の額を限度として、差押え後に収入すべき金額に及ぶ。
差押えられたモノは処分禁止、違反すると罰則も
差押えを受けると、差押えられたモノ(前述の財産など)は自由に処分することができなくなります。
万一、この禁止事項を破り、勝手に処分すると罰則を受けることもあります。
では、税金滞納による差押えの効力は、実際どのように及ぶのでしょうか。ざっくり見てみましょう。
差押え後におけるその財産の譲渡又は権利設定等の法律上の処分は、差押債権者である国に対抗することができない。
例えば、家屋を差押えた場合、その差押えの効力は家屋の従物となっている畳や建具等にも及ぶ。
■「天然果実」とは、元物の用法に従い収取する産出物をいう。(例:果実、野菜、牛乳、鶏卵、羊毛、動物の子ども、石山から採取される石材等)
■「法定果実」とは、元物の使用の対価として収取される金銭その他の物をいう。(例:家賃、地代、小作料、利息等)
(1)差押財産を換価した場合(債権取立ての場合を含む):その換価に基づく配当が終了した時
(2)差押財産が滅失した場合(法第53条第1項の規定の適用がある場合を除く):その滅失した時
(3)差押えを解除した場合:その解除をした時
【差押えの効力】
差押えは、滞納者の特定財産の法律上又は事実上の処分を禁止する効力を有するものであり、差押え後におけるその財産の譲渡又は権利設定等の法律上の処分は、差押債権者である国に対抗することができない。この場合において、差押えにより禁止される法律上又は事実上の処分は、差押債権者である国に不利益となる処分に限られるから、例えば、差押財産についての賃貸借契約の解除、差押財産の改良等の処分はこれに含まれない。
国税徴収法基本通達 第47条関係
なお、債権(電子記録債権を除く)の差押えに当たっては、処分禁止の趣旨を特に明示することとなっており、電子記録債権及び振替社債等の差押えの場合においても同様である。
差押えの解除要件とは?
差押えを解除する(解除してもらうという表現のほうが妥当かもしれません)要件は、主に2種類あります。
- 差押えを解除しなければいけない場合(必要解除の要件)
- 差押えを解除できる場合(裁量解除の要件)
必要解除の要件
税金滞納で差押えを解除しなければならない場合(必要解除の要件)とは、「納付」や「金銭的価値が失われたとき」などが該当します。
「納付」とは文字通り、滞納している税金を全額納付した場合です。滞納していた税金を全額支払ったので、差押えは解除されなければいけません。これが必要解除です。但し、滞納していた税金を払うだけではダメです。それについては、本文下部で説明します。
「金銭的価値が失われたとき」とは、差押えしていたモノが価値を失った場合です。
例えば、「差押えられていた証券の会社が倒産し、証券が紙切れ同然になってしまった」というように、差押えをしていたモノ自体に価値が無くなったことにより、差押えをする意味がなくなり、差押えを解除するといった場合のことをいいます。
裁量解除の要件
以下に挙げる例のように、差押えは有効な手段ではないから解除すべきだと債権者が判断した場合(裁量解除)には、差押えが解除されることがあります。
税金滞納の場合では、「三回公売」や「更に公売に付しても売却見込みがないとき」などが裁量解除の要件になります。
三回公売とは公売(行政機関が行う競売のこと)を3回実施したが落札されなかった(不落という)場合で、更に公売しても売却見込みがないと判断された場合、差押えを解除することがあります。
※ここで説明したのは国税徴収の場合です。民間の借金や売掛金未払いに対する差押えの場合は、次項で詳しく説明します。
【三回公売】
同一の公売財産を3回公売にかけたことをいい、この回数には、換価執行行政機関等(換価執行決定をした行政機関等をいう)が公売にかけた回数も含まれる。
【更に公売に付しても売却見込みがないとき】
直前の公売又は随意契約による売却における見積価額の決定時点から公売財産の価格を形成する要因の変化及び新たな要因がなく、その見積価額を変更する必要がないと認められる場合において、差押財産の形状、用途、法令による利用の規制その他の事情を考慮して、更に公売にかけても入札等がないと認められ、かつ、随意契約による売却の見込みがないと認められるときをいう。
差押えを解除するために
前項で差押え解除の前提条件を解説しましたが、ここからは、更に具体的に解除するための要件を解説します。
債務や税金等滞納金の全額返済
銀行の住宅ローンや事業資金融資、そして消費者金融からの借入れなど債務の支払いが遅れたことなどが理由で、担保にした自宅不動産を差押えられていた場合は、遅れていた返済分を全額返せば差押えは解除してもらえる可能性があります。
但し、ここで「可能性」と謳ったのには理由があります。
差押えられるほど長期に延滞している場合、これ以上の取引はできないとされ、借入れの全額返済を求められるのが一般的です。これを「期限の利益を喪失する」といい、要は
住宅ローンを毎回遅滞なく返済していれば分割払いで返済できた(期限の利益)が、返済が遅れたので全額耳をそろえて返せ(期限の利益を喪失)
ということになります。この段階まできてしまうと、滞納分を全額返済したところで時すでに遅しです。
また、住宅ローンなどの債務は滞納すると月々の返済分と利息に加え、返済が遅れた損害金(遅延損害金、延滞利息など)も必要になりますし、税金の場合も延滞税や追徴課税分も合わせて支払わないと差押えの解除はしてもらえませんので注意が必要です。
債権者との和解に向けた話し合い
銀行などの融資であれば、債権者と話し合いをすることで差押えを解除してもらえることもあります。
もちろん、差押えになるくらい事態が深刻化しているので、話し合いはズムーズに進まないことも多く、解決に向けて専門家に仲介を頼むことも検討すべきでしょう。専門家とは、弁護士や差押え物件の扱いに強い不動産会社などです。
例えば、次項で説明する「差押え禁止債権の範囲変更の申立て」なども、専門家の力を借りなければ話し合いは難航すると思われます。
差押禁止債権の範囲変更の申立て
差押えられる財産にも一定の決まりがあり、どのようなものでも差押えの対象になるわけではありません。
2020年4月1日より施行となった改正民事執行法により、差押禁止債権をめぐる規律の見直しが行われ「取立権の発生時期の見直し」がされることになりました。
差押禁止債権とは、
① 債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付
② 給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与
③ 退職手当及びその性質を有する給与
これらに係る債権のことをいいます。
この差押禁止債権については原則として、給付の4分の3に相当する部分の差押えが禁止されていますが、この債権の範囲においては具体的な妥当性を欠くことがあるため、債務者又は債権者には差押禁止債権の範囲の変更が認められています。
改正前の民事執行法では、債権者の取立権行使までの期間は「債務者への差押命令の送達日から1週間」とされていましたが、1週間という短期間で範囲の変更を申立てするのは困難であり、あまり制度が機能していなかった状況なども踏まえ、改正後の民事執行法では、債権者の取立権行使までの期間が「債務者への差押命令の送達日から4週間を経過したときに取り立てができるもの」と変更されました。
また、手続き面においても、この制度をより利用し易くするという観点から、手続教示の規定が設けられることになり、裁判所書記官は、差押命令を送達するに際に債務者に対して、当該差押命令の取消しの申立てをすることができる旨とその他最高裁判所規則で定める事項を教示しなければならないものとされ、
■ 教示は書面ですること(民執規則133条の2第1項)
■ 教示の内容は民事執行法153条1項又は2項の規定による差押命令の取消しの申立てに係る手続の内容とすること
(同規則133条の2第2項)
と定められました。
例えば、「給料を差押えられたことで家族が生活できなくなる」などといった事情を裁判所に申立て、それが認められれば、他に差押えられる財産があればそちらと交換したり、場合によっては差押えが取り消されたりすることもあります。
また、これらの申立てをしている間は、裁判所の命令があれば差押えや督促が一時的に停止されるケースもあります。
【差押禁止債権の範囲の変更】
民事執行法第153条
(1項)執行裁判所は、申立てにより、債務者及び債権者の生活の状況その他の事情を考慮して、差押命令の全部若しくは一部を取り消し、又は前条の規定により差押えてはならない債権の部分について差押命令を発することができる。
(2項)事情の変更があったときは、執行裁判所は、申立てにより前項の規定により差押命令が取り消された債権を差押え、又は同項の規定による差押命令の全部若しくは一部を取り消すことができる。
自己破産・個人再生
自己破産や個人再生といった法的整理を申立てて受理されると、原則として差押えはできなくなります。
自己破産とは、そもそも債務も財産もすべて手放すことで借金から解放される救済措置です。借金も財産もなくなっているので、差押えは無理という理屈です。
但し、ここで注意いただきたいのは、自己破産をすれば差押えから逃げられるのではなく、財産を失っているから差押えがなくなったということです。ハッピーエンドではありません。
また、破産手続き開始の決定後に手に入れた財産は、破産手続き中でも差押えの対象になります。もっとも破産手続き後に財産を手に入れるのは色々問題があるので、そもそも無理です。
不動産の任意売却
任意売却は、差押えになった場合に金融機関でも提案することがある解決方法です。
任意売却は、銀行や保証会社など債権者の合意を得た上で不動産を売却する手段です。住宅ローン返済が出来なくなった場合の解決方法として競売ではない選択肢のひとつに任意売却があります。
差押えが解除されると
差押えが解除されると、本人(税金なら滞納者)へ解除されたことが文書で通知されます。
住宅ローンなど担保になっている不動産が税金滞納で差押えられた場合では、その後滞納による差押えが解除されたときには、本人とは別に銀行(税金滞納による差押えでは第三者と表現される)にも解除の通知が届きます。これは差押えの取り消しでも同様の手順となります。
【差押えの解除の手続き】
国税徴収法第80条
差押えの解除は、その旨を滞納者に通知することによって行う。ただし、債権及び第三債務者等のある無体財産権等の差押えの解除は、その旨を第三債務者等に通知することによって行う。
差押えを受けて困ったら専門家に相談を
差押えを受けて困ったら、まず専門家に相談することをお勧めします。
いちとりでは、専門のコンサルタントが任意売却を希望される債務者(不動産所有者)と 債権者(金融機関・役所など)の利害関係者との間に入って、所有不動産の任意売却に向けた話し合い・調整を行います。