自宅が競売にかけられました。取下げる方法はありますか?
先日、当社に一本の問い合わせのお電話がありました。
その方のお話によると、住宅ローンの滞納によって、現在お住まいになっている自宅マンションが不動産競売の申立てをされてしまい、4日後に裁判所から執行官が調査にやって来るということでした。このままでは、家族で暮らす家を失ってしまう。何とか不動産競売を取下げる方法はないかというご相談です。
そこで今回は、お電話をくださったご相談者様(以下、Aさん)のケースを元に、不動産競売の申立てをされている状況において、債務者がこの申立てを取下げるためにはどのような方法があるのかということについて、不動産競売が実施されるまでの流れも確認しつつ、お話をさせていただきたいと思います。
株式会社いちとり
代表取締役/代表相談員
林 達治
東証一部上場不動産会社、外資系金融機関、任意売却専門会社を経て、日本全国の不動産を対象とした任意売却を専門に扱う「株式会社いちとり」を設立。
勇気を出して相談してくださったご相談者様に最後まで寄り添ってサポートすることを信条に、現在も会社代表を務めながら代表相談員として、住宅ローンの悩みを抱える方々の問題解決のために精力的に活動している。
長年培ってきた任意売却に関する豊富な知識と経験を活かして、個人・法人問わず、年間500件以上の相談を受けており信頼も篤い。
裁判所執行官による現況調査
まず、お電話をくださいましたAさんの場合、4日後に裁判所執行官が自宅にやって来るという状況でした。
「裁判所執行官が現地を調査するためにやって来る」という状況なのであれば、ご自宅はすでに裁判所によって競売手続きの開始が決定されているということになります。競売の開始決定がなされると、競売の手続きを執行する裁判所は執行官に対し、不動産の形状や占有関係、その他の現況について調査するように命じます。
命じられた執行官は、対象不動産の現況を調査し、必要事項を記載した「現況調査報告書」なるものを作成して、所定の期日までに執行裁判所に提出します。執行官が作成した「現況調査報告書」を始め、競売に必要な物件資料が調うと、次に公告が行われ、競売物件として世の中に情報が公開されるようになります。
現況調査から不動産競売までの流れ
それでは、対象物件に裁判所の執行官がやって来るという段階から、不動産競売が実施されるまでの流れを確認していきましょう。
現況調査
裁判所の現況調査命令に基づき、執行官が現地を調査するために訪問してくる。不動産鑑定士も一緒に同行させて調査と写真撮影などを行うのが一般的。
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売却基準価額の決定・物件に関する調査資料の作成
執行裁判所が、売却基準価額(入札金額の最低ライン)を決定し、裁判所書記官が「物件明細書」など物件に関する資料を作成する。
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売却処分の実施
裁判所書記官が、売却方法の選択、入札日(および期間)、開札期日および売却決定期日の指定などを行い、執行官に売却を実施させる。
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公告
対象物件の競売情報を、裁判所内の掲示板やインターネットなどを利用して世間に公開する。
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入札
購入希望者による、入札(オークション)が開催される。
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開札
入札書を開封し、最高価買受人(落札者)が決定する。
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売却許可決定
裁判所が、最高価買受人に対して不動産を売却してもよい相手かどうかを調査し、売却許可あるいは売却不許可の決定を出す。
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代金納付・所有権移転登記等の嘱託
(売却許可となった場合)代金納付の時期や方法、所有権移転登記等の手続きなどについて定め、実施する。
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配当
売却代金を各債権者へ分配する。
概ね、このような流れで不動産競売は進行していきます。
期間としては「現況調査」から「入札」までおおよそ6ヶ月前後が一般的ですが、対象となる物件や債務者が置かれている状況によってその期間も変わってきます。私たちが思っているよりも早いペースで手続きが進行していくケースもありますので、あまり悠長に構えず早めに対策に乗り出すことが重要です。
では、そのような状況の中、債務者自身がこの競売を止める方法はあるのでしょうか。
債務者が不動産競売を取下げる方法
申立てられている不動産競売を債務者自身で取下げることができる方法は、次の2つです。
①遅延損害金なども含め、残っている債務全額を一括で返済する
まず、競売申立てより前の段階で、債務に対して「分割返済できる権利」が消滅します。これを「期限の利益喪失」といいますが、滞納が概ね3ヶ月以上続くと、一般的にはこの期限の利益喪失に関する通知書が債権者より送られてきます。
期限の利益が喪失しているため、不動産競売を取下げてもらうには残っている債務全額を債務者が一括で返済する必要があります。
②任意売却を行う
もう一つの方法は「任意売却」を行うという方法です。
一般的に住宅ローンで不動産を購入した場合、売却代金によって住宅ローンの残債務が完済できなければ売却をすることができません。しかし、売却しても債務が残ってしまう不動産を売却させることができるのが任意売却という手続きになります。しかし、任意売却を行うためには債権者の承諾が必要になります。
売却活動に関しては、一般に流通している不動産と原則同じ方法で行いますので、不動産競売になるよりは高値で売却することが可能となり、売却後に残る債務も不動産競売よりは圧縮させることができます。また、債権者に承諾を得た上で行う手続きですので、残った債務の返済方法についても債権者と話し合いをしながら、生活に無理が出ない範囲で行っていけるというメリットもあります。
住宅ローン債務者が不動産競売を取下げられる唯一の方法は「任意売却」
住宅ローンなどを滞納している債務者が、前述①の方法(残債務の一括返済)で不動産競売を取下げるというのは恐らく無理でしょう。そうなると、残る可能性は②の方法(任意売却を行う)ということになります。
しかし、任意売却も依頼をすれば必ずできるという訳ではありません。なぜなら、任意売却を行うには債権者の承諾が必要であり、債務者がどれだけ任意売却を希望しても、債権者が認めてくれなければできないからです。また、債務者が債権者に直接申し入れをしても話を聞いてはもらえませんので、任意売却を行う場合には、債務者と債権者の間に入ってサポートしてくれる協力者が必要になります。
そして、任意売却の依頼先としては、不動産会社、弁護士、任意売却専門会社など様々な選択肢があります。しかし、一般的な流通不動産を売却するのとは手続きや進め方が異なりますので、やはり任意売却に精通した任意売却専門会社に依頼をするのが一番お勧めです。
まとめ
それでは最後に、Aさんの話に戻ります。
Aさんは、途中から通話の相手がお子様に変わり、お子様が金融機関に相談して自分たちで解決されるとのことでした。その決意は固く、何度ご説明してもお気持ちが変わらなかったため、残念ながらここでご相談は終了となりました。
もうお分かりかと思いますが、競売申立てをされてしまっている以上、債権者や裁判所、あるいは警察署などにご自身で相談に行っても、債務の一括返済を行う以外は債務者側が不動産競売を取り下げることはできません。取下げができるのは、競売申立てを行った申立債権者のみです。
Aさんのことがとても心配ではありますが、同じような状況下にある方には何とか不動産競売だけは回避して欲しいという思いから、本コラムでお伝えさせていただきました。
「任意売却」の手続きは、専門性が問われる不動産取引です。
任意売却の相談や依頼をされる場合には、任意売却に関する豊富な知識と実際に任意売却の実績がある会社にしてください。そして、任意売却には対応できる時間に限りがありますので、できるだけ早めに相談するのがベストです。